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全音ピアノピース・ファンに贈る オススメの1冊

第4回 No.156 ユーモレスク(ドヴォルジャーク)


 ピース・ファンの皆さま、こんにちは。 このコーナーを長らく更新できずにおりました、すみません。
 今日は久々ながら、「ぜひこのコーナーにしたためておかねばならぬ!」と必然性をビシビシ感じた一曲をご紹介しましょう。私にペンを握らせた一曲は、ズバリこちら!

ピースNO. 156「ユーモレスク」です!

 あ……それ? って思いました? そう、皆さんもおそらくよく知るあの曲ですよ。耳にすれば、おそらく「チャンチャ チャンチャ チャンチャ チャンチャ……」(文字化するとほぼお囃子)と歌い出したくなるに決まっている、あの「ユーモレスク」ですね、ドヴォルジャークの。たいへん有名です。
 実際にこの曲を自分で弾いたことありますか? わたし、なかったんですね。ところが先日、ひょんなことで耳にした「ピアノ名曲集」のようなCDの中にこの曲が入っていて、どうしたわけか非常にしみじみと聴き入ってしまい、それで自分でもムショウに弾いてみたくなりました。こんな時ですよ、ピースが嬉しいのは。たいてい有名なピアノ小品がラインナップされていますからね! チェックしたらやっぱりありました、NO.156に。

 この曲は非常に昭和っぽい……勝手ながらそう感じます。おそらく昭和の一般家庭にはかなり存在していたとおぼしき「ピアノ名曲集」のようなレコード。その中には、けっこうな確率でこの曲が入っていたんじゃないでしょうか。わたしが少女時代に聴き込んでいた、おそらく母が嫁入り前から持っていたレコードにも入っていました。お人形みたいな外国人の女の子が、アンニュイな表情でピアノにもたれかかっているようなジャケットのLP。レコード盤はかすかに透明感のある濃いエンジ色をしてました。パチパチと針が当たるようなノイズの奥から聞こえてきた「ユーモレスク」。心が浮き立つような、でもどこか哀愁も感じられるような、なんともいえないメロディーとスウィング感。そして歌い上げるような明るくロマンティックなフレーズが登場したかと思えば、中間部は少し熱を帯びた短調。ああ、ステキです。

 というわけで、ピースを手にした私は、いよいよ自分の手でかの名曲を弾くことに。鍵盤に手を置いてみると……「!!!」……いきなりの違和感。え……まさかの……♭6つ!! そう、この曲、変ト長調だったんです。知ってました? あの、優しくキャッチーな「チャンチャ チャンチャ……」、最初の1小節目は右手も左手も黒鍵ばっかりで弾かれていたんですね! お、驚いた。変ト長調はキホン、白鍵はドとファのみですからね。
 しかしながら、まぁ弾き進めてみますと、意外と黒鍵をタッチしつづけるのも悪くないな、っていう気分になってきます。たまには黒鍵たちにもたくさん触れてあげよう、みたいな。それに♭系の調性って、なにかこう、暖色系のイメージありますよね。♭が6つともなれば、そりゃもうホカホカですよ。心が温かくなるってもんです。そしてまた、ドヴルジャークがかなりいい感じのところでシのダブルフラット使いを仕込んでくるんですよ。グッときます。そこなんかはもう、弾いていて顔が変わります。クッと思わず眉毛が上がる人、けっこう多いと思いますね!
 でもですよ。中間部の情熱を帯びる短調のところ、何調か知ってます? ここ、嬰へ短調なんですよ! そうです、♯系に行くわけです! パッと音楽の色味が変わるように感じるのはそのせいでしょうか。変ト長調と嬰ヘ短調は異名同音的に言えば同主調のような関係なんだけれども。これがしかし、譜面になると♯が3つ。明らかに♭6つより近寄りやすい(笑)。途中でイ長調にもなったりしてね。というわけで、この中間部はちょっぴり熱っぽさをこめて弾きやすい。民族舞踊風な左手の伴奏系も、ノリよくかっこよく弾きやすい。 く〜〜……っ よくできてます、この曲! やりますね、ドヴォルジャーク!

 というわけで、今回は「ユーモレスク」のプッシュでございました。まだ弾いたことはないという方、ぜひその手で実感してみて下さいね♪

第4回 おわり


(No.156) ドヴォルザーク:ユーモレスク

Level.B 菊倍判/6頁

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プロフィール
飯田有抄(いいだ ありさ)
音楽ライター、英語翻訳。1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒、同大学院音楽研究科修士課程修了。マッコーリー大学院翻訳通訳修了。音楽ライターとして『CDジャーナル』『ムジカノーヴァ』『ぴあクラシック』等の音楽誌、ローランド社の『RET’S PRESS』、CD、楽譜、演奏会プログラムノートなどを執筆するほか、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)のウェブサイトにて記事を連載。著書に『あなたがピアノを続けるべき11の理由』(ヤマハ・ミュージック・メディア)。全音楽譜出版社、音楽之友社の出版譜等の作曲者解説の英語訳を行う。