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全音ピース愛好部 部室

第1回 全音ピアノピースのグッとくるところを語ろう


書記: みなさま、こんにちは。ようこそ全音ピース愛好部の部室にお越し下さいました。この部室では、全音ピースを熱く愛で、本気で語っていきたいと思います。よろしくどうぞ。
部長: 部長です、よろしくどうぞ。いや、まさか、このように立派な部室を用意していただいて、思う存分ピースについて語ってよろしい、と言っていただける日が来ようとは思ってませんでした。しかも全音ピースのための公式サイトですよ?!
書記: 驚きましたねぇ。実はわれわれ、これまでにもピースについて熱く語ってきた経緯がございます。ピティナさんのウェブサイト内にある「読み物」コーナーで、かれこれ4年程前に10回に渡って連載してたんです。ね、部長。
部長: ええ、そうでした。あの頃、まだどなたも、われわれのように熱意ある眼差しをもってピースを語っておられませんでしたからねぇ、たぶん。それはもう興奮しましたねぇ。
書記: 白熱しました。ぜひそちらも読んでいただきたいです。下にリンクを貼ってもらいましょう。で、読んでいただければ、部長(旧連載では会長)とわたくし(旧連載では広報)が、なぜ、2008年にあってなお、ピースとピースを取り巻くピース文化を語り出したのか、そしてその迫り具合をおわかりいただけるのではないか、と。
部長: ですねぇ。対談形式の文章でお届けしようと思ったのは、かつて司馬遼太郎や小泉文夫や武満徹らの素晴らしい対談本を目にしましたが、最近あまり見ないですから、それに倣うといった意味合いもあったかと。
書記: !!…..そ、そうなんですか。それ全然知りませんでした。ていうか、引合い例が凄すぎる。
部長: いやなに、われわれもがんばりましたよ。ピースの歴史をひも解こうと全音さんに取材しましたし、ピース欠番の謎にも迫りました。ラインナップの死角を指摘し、ピースのご使用法の提案も……そういや、誰も弾いてないんじゃない? っていうマイナー曲を見つけては、ピアニストに録音までお願いしましたねぇ(遠い目)。妙に演歌っぽいイヴァノヴィッチの「ダニューヴ河の漣」とか、ムリヤリ弾いてもらったりして……くくく。いやいや、ほんと、楽しかった、やりきった。ピース万歳。以上。
書記: ちょ!ちょっと待って下さい、部長!!なに“やりきった感”出しちゃってるんですか! こっ、この部室をせっかくいただいたんですよ?!それにあたって、ぶるぐ協会(われわれのブルグミュラーの研究ユニットです)とは別個に、わざわざ「全音ピース愛好部」を立ち上げて、「部長」と「書記」って名前も付けたじゃないですか!
部長: ああ、そうねぇ。もちろん私のピース愛は、今だって陰り一つ生じてませんよ? むしろ愛情は深まるばかりといっても過言ではない。
書記: そうですよ、部長。私思うんですけどね、昭和50年前後生まれのわれわれにとって、ピースってあまりに身近な存在で、当たり前すぎて見えないくらいの代物だったと思うんです。それをいい年になったわれわれが、あえて21世紀も明けて久しい2008年に光をあてた。あ、これは、くる! と思いましたよ。われわれの連載を皮切りに、ピース大研究とか、ピース攻略本とか、いろんな人がやり出すかと思ったんです。
部長: だよね。あれ? でも、そうでもないね。
書記: ……え、ええ。
部長: そういえば、この前銀座のヤマハさんとか行ったらね、ピース売り場の前、けっこう人少なかったよ。 昔なんて、お小遣いにぎりしめて楽譜屋さんに出かけてさぁ、ほしいピースのファイル取ろうとしても、あ、ちょっとスイマセン、とか手を伸ばしてファイルを確保する技術が必要なくらい、ピースコーナーは超混みだったわけよ。
書記: たしかに! そりゃあ、あの当時のピアノお稽古ブーム時代には、特有の勢いがあったのは否めません。でも、つい先日新宿で、ピースの緑ラインが透きとおって見えてる島村楽器の袋をもった方と、エスカレーター越しにすれ違いましたよ!目敏く見つけた私は、「あ、それ何番?!何の曲買ったの?」ってききたかったけど、きけなかった。エスカレーター動いてたし。ですからね、もちろん今だって、いるんです! 待ってるんです! ピースユーザーたちが! われわれのようにピースを愛でる語りべたちの再来を!
部長: あ、やっぱり? ほんと? なぁんだ、やっぱりみんな、待ってるんじゃん! 4年におよぶ沈黙をやぶって、ピーストーク、再開といたしましょうか!

■ピースと発表会の熱い関係

書記: …と、息巻いてみたものの、本日はどんなことから語りましょうか
部長: まぁ、初回ですからね。間口広くいきましょう。ではご家庭内のピースを、今一度ご覧あそばせ。そこから、いくらでも語れます。
書記: さすが部長!
部長: ピースって家のなかに、けっこうあるもんです。
書記: 実は私、今回の部活のために、自分のピースをかき集めてみたんです。けっこう楽譜棚の中に散在してました。ピースが入り込むちょっとした場所は、人の心のみならず。
部長: そう。ピースはね、すき間すき間をねらってくる。
書記: こうやって並べてみてると、意外と買ったときのシチュエーションとか、脳裏に焼き付いてますねぇ。「乙女の祈り」は親からの「弾いてくれ」というリクエストで買いました。でも意外にハイレベルで弾けなかった。ごめん、親。
部長: そう。親世代はね、「乙女の祈り」、好きなの。
書記: 「きらきら星変奏曲」は、レッスンではやらなかったんだけど、弾きたくて自分で買った。
部長: そこ。重要です。先生から「やりなさい」って言われた曲じゃないものを、ピースで持ってるんだよねー。
書記: そうなんですよ! 誰かが発表会で弾いた曲とか、まだ自分にはムリかな〜と思っても、こっそりお小遣いから自腹で買うんです!
部長: 人が弾いた曲って、いいんだよね。私、発表会の後はピースの裏面の「一覧表」に直行ですからね。表の中に、弾いた子の名前とか書き込んでた。
書記: すごいチェック……。まぁピースと発表会は切っても切り離せません。ピースで持ってるのは、発表会で聴いて買った曲か、逆に、ズバリ自分が発表会で弾く曲ね!
部長: うん。発表会はちょっとムリ目の曲を選んだりするから、先生も「ピースで買いなさい」とか言う。レッスンで普段やる曲は、ツェルニーやらソナチネアルバムやらインヴェンションやら、ちゃんと曲集で持ってるんだけども。
書記: ですです。でもね、私、驚くべき事実を知ったんですよ。ほぼ同世代でも、ピース全然持ってない、知らなかった、それっておばあちゃんが使う楽譜だと思ってた、ってそう言う人もいるんですよ。おいおい全部曲集買いか?っていう。
部長: ああ、そうね!いる!それね、エリートピアノ教育を受けてた人。かれらはピースまで辿り着かない。
書記: え!本当?……や、待てよ。確かに、衝撃の「ピース知らぬ」話をしてくれた人たちって……うわ。本当に全員、音大とか芸大のピアノ科行ってるわ。
部長: でしょう?とある音大ピアノ科出身の方も「小さい頃からガイバンでした」って。
書記: ガイバン?!え、外版ですよね。つまりその、ヘンレとかペータースとか、外国の楽譜だ。えええ。専門教育恐るべし。昭和のピアノ少年少女はとにかく数が多かったけれど、まさか、ピースを「知る/知らない」の境目が、そんなところに!
部長: 盲点です。
書記: もったいなさすぎる!エリートピアノ教育少年少女たち! ピアノピースとともに過ごす青春を体験できないなんて!!
部長: だからこそ、われわれの部活動を通して、その素晴らしさを伝えていこうではないか! 書記よ!
書記: ハイ!部長!

■この曲、ピースで知りました!

書記: 私、実は大御所のベートーヴェンもショパンの名曲も、ピースで最初に出会ってたりします。たとえば、ベートーヴェンのソナタ、「テンペスト」。これ私、ピース買いですから。ソナタの中の17番だってことも、ほとんど関係ありません。
部長: 「テンペスト」はそうね、3楽章だけ弾きたい人は、ピースですよ。
書記: そのとおり。3楽章ねらいでした。1、2楽章まったく弾いていません。あとね、ショパンの「小犬のワルツ」も「マズルカ」に関しても、私はピース育ちです。この2曲は発表会でやりました。「マズルカ」が曲集でいうop.7-1だとか、ぜんぜんお構いなし。のちのち大人になってから曲集中に見つけて「あ、これか!」みたいな。なつかしの友と再会した気分。そのピースがこれです。
部長: お、書き込みあるね。「右手指番号なおす」って。あとなぜか電話番号のメモとか。
書記: 昔の楽譜ひらくと、なぜか電話番号がよく書いてあるんです。携帯電話とかない時代。
部長: 子供ですから、手帳を持っているわけでもないし。先生たちが、ちょっと楽譜にメモなんていう一幕もありました。
書記: ピースに残る、当時の先生の書き込みも面白いですよ。中間部に「ふしぎな音楽」って書いてある。うん、確かに不思議かもね、ここの曲想。この先生、大好きだったなぁ。
部長: けっこうペダリングとか、自分風にアレンジして書き込んじゃう先生もいて、当時よしとされていた解釈なんか見えてきますよね。
書記: メジャー作曲家で言えば、私、シューマンとの出会いもピースが最初。「トロイメライ」と「ロマンス」ね。今だに、ピアニストのリサイタルとかで「トロイメライ」が弾かれると、次に「ロマンス」始まるんじゃないかと思っちゃう。
部長: 実は違う曲集の作品なのに。刷り込みって恐ろしいね。
書記: 私の中では、この2曲はセット。そういう人は少なくありますまい。ピースで出会っちゃえば、そうなる。まぁ「子供の情景」と「子供のためのアルバム」からの曲なので、一応「子供」つながり。
部長: そうそう、ピースの謎の一つに、なぜこの二曲を?っていうのもあるね。No.15の「ト調のメヌエット/楽しき農夫」は、ベートーヴェンとシューマンの二本立て。
書記: まさかのコラボ!
部長: ベートーヴェンは他にもコラボされてまして、No.52の「サラバント/神の栄光」ね。「サラバンド」はヘンデルの曲です。
書記: 二人とも、後世にそれぞれがピース状態で並べられるなんて、思ってもみなかったことでしょう。
部長: もう一つ、No.141「闘牛士の行進/兵士の行進」。こちらはビゼーとグノー。
書記: フランスの作曲家による行進曲つながりね。どっちもビゼー作曲だと思っちゃう人いないかなあ……。

■どっかにいきそうで、いかないピース。

部長: とまぁ、このように、お手持ちのピース見てるだけでも、話は尽きないものです。こういったピースがですよ、気付かないうちに何冊かたまってて、それらが意外と、家の中でなくならない! 
書記: なくなりませんねぇ、ピース。私は北海道、山梨、東京と引っ越しをしてるんですが、どっかいきそうでいかない!別に意識してるわけでもないのに。
部長: 愛着もって、長年使ってたりする。使い込みすぎて、ボロボロになって、背面裂けちゃってるのとか、ありませんか?
書記: ありますよ! 私の「人形の夢と目覚め」は小樽で買った32年前のシロモノです。おり目は3分の2まで裂けてます。
部長: 裂け自慢で言えば、私の「きらきら星変奏曲」。
書記: ちょっ……部長、これ、1ページしかないじゃないですか!完全に裂け切ってますよ!ピース・オブ・ピース状態。
部長: うん、でも大丈夫なの。ぜったい家の中にあるよ。他のページも。そしてモノとしてのピースはバラバラになっても、音楽はすべて私の頭の中に入っている!
書記: こんなに裂け切るほど使い込んでいれば、そりゃ頭に刷り込まれるってもんですね。あっ、部長、こっちの「荒野のバラ」も全部裂けちゃってる!ページはそろってるけど。
部長: まぁね。これ小2の頃のだからね。そのころなんて、野山駆け回って遊んでますからね、泥んこの手でそのままピースつかんで、よくピアノの先生に「手洗って来なさい!」って言われてました。
書記: いやはや……「荒野のバラ」の表紙だけに、当時の部長の野生児っぷりが偲ばれます。
部長: ちなみに「荒野のバラ」は、全音の『ランゲ ピアノアルバム』の中では、「のばら」っていう邦題。けっこうなイメージの違い、あるよね。「荒野」はどうして付いた? みたいな。
書記: この曲の原題はHeidenroslein 。なるほど、庭園や花瓶のバラではなくて、野に咲いてるバラ、ということなのでしょう。その意味では両方の日本語タイトルは合ってます。しかし、日本語の「荒」っていう字はなんともインパクトありますね。いや、私は好きですよ。ピースのもつ密かな野心を感じるというか。曲調のあっけらかんとした雰囲気とのギャップもけっこう、ぐっときます。
部長: Fdur(ヘ長調)。誠に明るい調性です。ピースのタイトルの面白さは、まだまだあるね。こっから先は、そうとうコアな話になっていくと思いますが……。
書記: ピース、やはり、奥が深い!ここまで読んで下さった皆さん。ぜひ、お家の楽譜棚に点在しているであろうピースをかき集めてみて下さい。思わぬ発見があるかもしれません。次回の部活動でも、さまざまな角度からピースを語っていこうと思います。どうぞお楽しみに。

第1回 おわり

外部リンク:部長と書記の対談「みんなのブルグミュラー」はこちら

部員紹介

部長(ぶちょう)

・1975年(昭和50年)生まれ 埼玉県出身
・全音ピース愛好歴:30年
・好きな全音ピース:No.100 リヒナー「勿忘草」
・趣味:ピース一覧表観察
・好きな言葉:ピース
・私にとっての全音ピースとは:恋人


書記(しょき)

・1974年(昭和49年)生まれ。北海道育ち
・全音ピース愛好暦:30年
・好きな全音ピース:No.18 カリニコフ「悲歌」
・趣味:ピース「難易度」の再検討(レベルAとBのみ)
・好きな言葉:断片
・私にとっての全音ピースとは:夢と希望


プロフィール
飯田有抄(いいだ ありさ)
音楽ライター、英語翻訳。1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒、同大学院音楽研究科修士課程修了。マッコーリー大学院翻訳通訳修了。音楽ライターとして『CDジャーナル』『ムジカノーヴァ』『ぴあクラシック』等の音楽誌、ローランド社の『RET’S PRESS』、CD、楽譜、演奏会プログラムノートなどを執筆するほか、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)のウェブサイトにて記事を連載。著書に『あなたがピアノを続けるべき11の理由』(ヤマハ・ミュージック・メディア)。全音楽譜出版社、音楽之友社の出版譜等の作曲者解説の英語訳を行う。

前島美保(まえしま みほ)
日本音楽史研究。1975年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒、同大学院音楽研究科博士課程修了。2012年「十八世紀上方歌舞伎音楽の研究―囃子方を中心に―」で博士号を取得。東京藝術大学音楽学部楽理科教育研究助手、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター非常勤講師などを勤めるかたわら、ブルグミュラー研究に従事。「ブルクミュラーの生涯と日本『ブルク』事始」(2006年、『ムジカノーヴァ』9月号)など。ぶるぐ協会主宰。