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全音ピアノピース・ファンに贈る オススメの1冊

第1回 No.80 人形の夢と目覚め(オースティン)


今わたしの手元にありますのは、「人形の夢と目覚め」No.80の楽譜です。
この曲、そのタイトルを口にすれば、たいていのピアノ学習経験者たちが振り向くはずです。「それ、知ってる!」と。そして、「こういう曲だよね?」と歌い出すに違いありません。

 ここでその人がどの部分を歌い出すかで、音楽的な好みだとか、どんな曲調にヨワいだとかが、わかってしまうかもしれません。というのも、この曲は途中からガラリと曲想変わってくるんですよね。そしてそれぞれに結構なインパクトがある。同じハ長調で、よくぞここまで書き分けました、作曲者のオースティン(現在はエステンと表記されています)。ちなみに曲は、「難易度 A」。両手が使えるようになって、音符も読めるようになったし、いよいよ曲らしい曲を演奏できますよ、のレベル(と私は理解しています)。

 私が持っている昭和50年代前半のピースをあらためて開いてみたら、冒頭から英語の発想標語がありました。Cradle Song。「ゆりかごの歌」ですから、小さな子どもがお人形を寝かしつけてるんでしょうね。ゆったりとしたメロディー。そしてしばらく進むとDolly sleeps 「人形、眠る」とあります。右手はもう、ドードドーだけ。2オクターブ低く下げてもう一回。えらく深い眠りに入りました。

 そしてピース2ページ目に入るとDolly’s Dream「人形の夢」に入ります。音楽がにわかに動き出してくる。そしてDolly Awakes「人形、目覚める」はわずか3小節。だけど結構な臨時記号が現れて、和音をパパンと鳴らさねばならない。ここは初心者にとって一つの難関でしょうね。などと人ゴトのように言っている私の楽譜にも、音名にしっかりカタカナがふってありました。それ見ないと弾けなかったんでしょう。

 さぁ、目覚めた人形はどうするか。Dolly Dances、そう、「人形、踊る」です。ホラーではありません。かわいい、かわいい曲です。む? でもよく見たら、曲の後半は全てダンス部分。最後の方なんて、クルクル回って、なんだかもう踊りが止められない・・・・・・・的な。あ、少しコワくなってきたので、これ以上考えるのはやめておきます。かわいい曲です。とても。

 と、いうように、かなり場面設定豊か。どこが記憶に残るかは人それぞれでしょうね。「人形の夢と目覚め占い」とか作れるかもしれない。

「Dolly’s Dreamを覚えていたあなたは・・・・・・おっとりさんだけど、実はシッカリ者! でも、イ短調に転調してしまうから、ちょっと心配性な一面も。Awakingな和音に驚かされて、転ばないように今日も一日気をつけて。ラッキー・アイテムは枕」

・・・・・・とか。かなり限定的な占いですけれども。

 それにしても、こういう英語の発想標語、小学生の頃ってほとんど気にしないで弾いていた気がします。私はこの曲をピアノの先生にみてもらった記憶がないので、自分で弾きたくて弾いていた。だから用語までは追いつかなかったんでしょう。
 あ、ここ、ポイントです。宿題じゃない曲でも、ピースなら自分で買ってきて弾いてしまう。これぞ、愛好者魂。当時はだいたいのピースが200円でしたから(現在は420円から)、親も財布の紐が緩むってもんです。あら、自分から曲を弾きたいなんて、応援してあげましょう、と。そんなわけで、我が家の楽譜棚には知らず知らずのうちにピースが何冊かたまっておりました。「エリーゼのために」「トルコ行進曲」「小犬のワルツ」・・・・・・。ピアノの名曲と言われるナンバーは、およそピースで知った世代です(昭和49年生まれ)。
 
 ところで、「人形の夢と目覚め」の作曲者のテオドール・エステン(1813~1870)は、ドイツの作曲家(オースティンは英語読み)。サロンの集いで愛されたピアノ小品や歌曲などを山ほど作った人物です。ピースには彼の作品が他にもあります。No.29には「アルプスの夕ばえ」、No.41には「アルプスの鐘」があります。どれだけアルプス好きなんでしょうか。

 アルプスつながりで行けば、No.157にラビッキー作曲「アルプスの乙女の夢」、No.158にランゲ作曲「アルプスの山小屋にて」、No.441に「アルプスの花」なども。「アルプス」って、ピアノ曲の作曲家たちをインスパイアする何モノかだったのですね。ピアノ教室の発表会で、「アルプス・コーナー」など設定していただくのはいかがでしょうか。

第1回 おわり

プロフィール
飯田有抄(いいだ ありさ)
音楽ライター、英語翻訳。1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒、同大学院音楽研究科修士課程修了。マッコーリー大学院翻訳通訳修了。音楽ライターとして『CDジャーナル』『ムジカノーヴァ』『ぴあクラシック』等の音楽誌、ローランド社の『RET’S PRESS』、CD、楽譜、演奏会プログラムノートなどを執筆するほか、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)のウェブサイトにて記事を連載。著書に『あなたがピアノを続けるべき11の理由』(ヤマハ・ミュージック・メディア)。全音楽譜出版社、音楽之友社の出版譜等の作曲者解説の英語訳を行う。